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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)79号 判決

控訴人(被告) 東京国税局長

訴訟代理人 井上經敏 中村正俊 外三名

被控訴人(原告) 財団法人冨士霊園

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と立証の関係は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(主張)

一  控訴人

1  三星は地主らと本件賃借権の仮契約を締結するにあたり、仮契約書第六条に「乙(三星)はその計画する財団法人冨士霊園の設立が認可せられた時はこの借地権の一部をこれに譲渡することができるものとし、甲(地主)は、これに同意する」と定め(甲第三号証二〇の一)、同様本契約を締結するにあたり、本契約書第八条に「乙(三星)が計画する財団法人冨士霊園の設立が許可されたときは、この賃借権の全部又は一部をこれに譲渡することができるものとし、甲(地主)は、これに同意する。」と定め(乙第一号証の一〇)、本件賃借権は被控訴人の設立許可がなされたときに三星から被控訴人に移転されるものであることを明らかにし、かつ、右契約を前提として(時期的には仮契約後で本契約前)本件寄附行為をなしているもので、三星の意思は、あくまで、被控訴人の設立許可がなされることを条件(停止条件)として、本件賃借権を被控訴人に移転することにあつたことが明らかである。

それゆえ、三星が本件寄附行為により本件賃借権についてなした寄附の意思表示は、被控訴人の設立許可を停止条件とする財産権移転の意思表示とみるべきものであり、被控訴人の設立許可がない限り停止条件の成就はなく、本件賃借権移転の効果は生じないものといわねばならない。

したがつて、本件賃借権は被控訴人の設立許可により初めて停止条件が成就し、三星から被控訴人に対し譲渡の効果が生じたものであり、右許可前において、仮に権利能力なき財団の存在が肯定され得るとしても、同財団の存在によつては未だ停止条件が成就したとはいえず、本件賃借権の移転がなされたとはいえないものというべきである。

2  仮に被控訴人の設立許可前に権利能力なき財団が存在し、同財団において本件賃借権を取得しているとしても、右取得によつては未だ国税徴収法三九条の処分がなされた場合にはあたらないものというべきである。すなわち、法三九条の処分行為の時期については、処分行為によつて該財産が国税債権の引当となるべき滞納者の一般財産から離脱し、相手方に帰属したときを基準として判断するのが相当であり、不動産の処分のように登記を対抗要件とする物権変動については、その対抗要件を具備したときに完全に滞納者の一般財産から離脱したものといい得るのである。ところで、同条にいう「利益を与える処分」が財団法人設立のためにする寄附である場合においても、右に述べたことは妥当すべきものである。ただ、民法四二条は寄附財産は法人設立の許可のあつたときから法人の財産を組成する旨定めているから、寄附の内容をなす「利益を与える処分」についていまだ対抗要件が具備されない場合であつても主務官庁による財団法人設立の許可がなされたときは右処分について対抗要件が具備されたものと同視すべきである。したがつて、右の場合においては財団法人設立の許可のなされた日をもつて国税徴収法三九条にいう「利益を与える処分」がなされたものと考えることができるのである。

また、本件賃借権のように対抗力の付与されていない賃借権にあつては、不動産の処分の場合との権衡上、賃借権の譲渡につき、賃貸人の承諾のあつたときをもつて、右処分がなされたものと解するのが相当である。しかるところ、前示のとおり、三星と地主らの前記賃借権譲渡に関する契約によれば、地主らは、被控訴人の設立許可を条件として、被控訴人に対し本件賃借権を譲渡することを承諾しているのであり、被控訴人の設立許可によつて、初めて右承諾の効果が生じたものというべきであるから、右設立許可がなされたときが、まさしく本件賃借権の承諾があつたときとなるのである。

以上、いずれの理由からしても、三星が本件賃借権を処分した時期は、被控訴人の設立許可の日である昭和三九年一〇月六日である。

3  のみならず、以下に述べる理由によつても、被控訴人設立前の権利能力なき財団に対する本件賃借権の寄附は法三九条の処分がなされた場合には該当しないものというべきである。すなわち、本件の如く後に設立許可が予定されている財団にあつては、右許可前の権利能力なき財団なるものは、所詮過渡的な存在に過ぎず、許可により設立される財団のため寄附行為に係る目的財産を精々管理し得るに止まるものであつて、これを自由に使用・収益し、かつ第三者に処分し得る処分権までは取得し得ないものというべきである。

しかして法三九条は、滞納者が国税債務の引き当てになるべき財産を無償又は著しく低い価額で処分した結果、滞納国税の徴収に不足を来たした場合において、右処分の相手方に国税の納付義務を課するものであるからして、この納税義務は当該相手方が当該処分により当該財産を終局的に取得することを要件としていると解されるから、管理権の取得のみをもつては、未だ法三九条の処分があつたとはいえないものである。

二  被控訴人

控訴人の当審における見解はすべて争う。

(証拠)〈省略〉

理由

一  当裁判所も、原判決理由冒頭から三五丁裏五行目迄の判示については、左記に訂正付加するほかは、その見解を同じくするものであるから、これを引用する。

1  原判決二六丁裏八行目「設立許可前といえども」以下同二七丁表二行目までを、「後記のとおり、当裁判所は三星が本件賃借権の寄附による処分をなした時期は、被控訴人の設立許可があつた昭和三九年一〇月六日であると判断するものであつて」と改める。

2  同二七丁裏三行目「同号証の二二」の次に「(但し、甲第三号証中後記措信しない部分を除く)」を、同六行目「争いがない)、」の次に「乙第五〇号証、」を、同末行「星均」の次に「同神成昇造、同清水元信」を、同二八丁表八行目「これらの者を」の次に「形式上の」を、同裏一〇行目「三星の本社内」の次に「の道路予定地に容易に取こわしのできるプレハブ二階建の」を、同末行から二九丁表一行目の「ホテル内に」の次に「もプレハブ作りの」を、それぞれ加入する。

3  同二九丁表四行目から五行目の「右推進母体となつた者らの指揮の下で」と、同一〇行目「同町役場の企画室長及び同室係員数名が」とある部分、及び同三一丁表六行目から九行目まで、同裏七行目「そうして」以下三二丁表一行目までをいずれも削除する。

(1)  同三〇丁表六行目から同裏一行目までを、

「(5)同年五月二五日付をもつて、星均が前記土地の賃借権(坪当り一〇〇円として合計五五八八万六〇〇〇円と評価された)及び現金一〇〇〇万円(第一銀行尾久支店通知預金)を設立しようとする財団に寄附する旨の書面を作成し、また、同日付をもつて安井謙、山田隆禧、遠藤三郎、山田光成、星均が右財団の理事に、松平勇雄、河本喜与之が監事になることを承諾した旨の承諾書が作成され、その頃要旨左記のような寄附行為が作成された。」と、

(2)  同三四丁表八行目以下一〇行目までを、

「以上のとおり認められる。しかしながら、昭和三九年五月二五日御殿場市において安井謙ら七名が出席して設立総会を開催し、被控訴人設立のための寄附行為を可決し、設立後の理事、監事を選出し、理事の互選により安井謙を理事長に選出したとの被控訴人の主張事実については、これに符合する甲第三号証の七ないし九の記載や原審証人勝又省吾、同神成昇造、同清水元信、同星均(一部)の各証言は、成立に争いない乙第四九号証、前掲乙第五〇号証の各記載に照らしてたやすく措信しがたく、他に前同日ないしその頃、被控訴人主張の如き設立総会が開催されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、前認定のとおり、前同日、星均が現金一〇〇〇万円を寄附する旨の書面による意思表示をしたこと、同年六月二日付で第一銀行尾久支店に財団法人冨士霊園名義で通知預金口座が開設され、一〇〇〇万円が預け入れられたことは認められるが、成立に争いない乙第四八号証、前掲乙第一三号証によれば、右通知預金には同日付で質権が設定され、同日星均は同銀行から右預金と同額である一〇〇〇万円の担保付手形貸付を受けており、右預金が全額払戻された同年七月三一日には右借入金が完済されていることが認められ、これらの事実に前掲乙第一二号証の記載を総合すれば、同年六月四日付被控訴人設立許可申請書に添付された同年六月二日付預金残高証明書に記載されている一〇〇〇万円は、控訴人主張のとおり「みせ金」ではなかつたかと疑う余地が多分にあるといわなければならない。被控訴人は、この点につき、右一〇〇〇万円のうち八〇〇万円は被控訴人設立のための事務所敷金にあてられた旨主張し、原審証人高山朗の証言はこれに符合するけれども、前認定のとおり被控訴人設立のために三星本社内や御殿場ホテルの敷地内に設置されたという事務所は、いずれも取こわし容易なプレハブ造りのものであり、かかる一時的使用の建物のために、被控訴人を設立しようとしている寄附者にあたる三星が多額の敷金を徴収すること自体著しく不自然な事柄というべきであつて、前示疑いを解消するに足りず、右一〇〇〇万円が真実設立中の被控訴人のために拠出され、使用されたものとは認めるに足りないものといわざるをえない。」と、それぞれ改める。

二  右引用の判示に続けて考察するに、被控訴人につき昭和三九年五月二五日の設立総会の開催や寄附行為の可決、設立後の理事等の選出や理事長の互選、現金一〇〇〇万円の寄附等は、いずれもこれを認めがたいものというべきであるばかりでなく、前認定から窺われるところに加え、成立に争いない乙第三号証の二、前掲乙第一二号証、原審証人小林新之助、同星均の各証言によれば、星均は、小山町の協力や安井謙ら知名人の信用を借りたとはいえ、三星の代表者として社員を指揮し、土地の調達、資金の捻出等被控訴人の設立のための実際の業務に携わり、また被控訴人の設立許可に至るまで本件賃借土地の管理も三星がなして来たのであつて、安井謙ら各理事とされている者たちの関与は寧ろ形式的であり、その役割分担も定められていなかつたことが認められるから、設立許可前の被控訴人について、寄附者の財産からの分離独立があり、その管理体制が確立していたものとはいいがたく、これにいわゆる権利能力なき財団の実体を認めることは困難であるといわざるをえない。

そうであるばかりでなく、曩に概略認定したところであるが、前掲甲第三号証の二〇の一ないし五、乙第一号証の二ないし一〇によれば、三星が地主らと本件賃借権設定の仮契約を締結した仮契約書六条には、「乙(三星)はその計画する財団法人冨士霊園の設立が認可せられた時はこの借地権の一部をこれに譲渡することができるものとし、甲(地主)は、これに同意する」と定められており、本契約書八条にも、ほぼ同趣旨が規定されているのであつて、これによれば、本件賃借権は被控訴人の設立許可があつたときに三星から被控訴人に移転されうべきものとして約定されていることが認められるのである。これらの点を総合すれば、三星による本件賃借権の寄附は被控訴人の設立許可を条件とするものと認むべく、三星による本件賃借権の処分の時期、すなわち三星から被控訴人に本件賃借権が移転した時期は、控訴人の主張するとおり被控訴人の設立許可があつた昭和三九年一〇月六日であると解するのが相当であり、この点に関する被控訴人の主張は採用できないことは明らかである。

三  被控訴人は、本件賃借権の寄附は対価なき無償のものではなく、これにより被控訴人は契約時における反当り年間九〇〇〇円、総額にして一七〇一万円に及ぶ賃料の支払義務を将来にわたつて負うほか、二五五一万円余の補償料等支払義務を負担するのに、三星は右債務を免れるばかりでなく、被控訴人に対し墓石の販売権を獲得し、その他関連事業を行うことにより莫大な収益をあげうる権利を取得したのであるから、法三九条の処分に該当しない旨主張する。そして、被控訴人がその主張する如き賃料支払義務を負うことは控訴人の認めるところであるが、民法四一条一項によれば、「生前処分ヲ以テ寄附行為ヲ為ストキハ贈与ニ関スル規定ヲ準用ス」とあり、私法上は財団法人設立のための目的財産の設定行為は贈与と同様の扱いがなされているばかりでなく、被控訴人が前示賃料の支払義務を負うからといつて(補償料の支払義務を負担することについてはこれを認めるに足りる証拠がなく、却つて乙第三号証の二によれば右補償料は三星が支払つたことが認められる。)、三星が本件賃借権の処分に対する対価を取得したものとは解しがたく、これにより三星が右賃料債務を免れたことは認められるとしても、国税徴収法の定める国税優先の原則(法八条)に照らせば、控訴人の徴税権の行使には影響がないものというべきであり、また、法三九条の解釈上将来の得べかりし利益についてまで考慮したうえで滞納者の資力減少の有無を判断すべきものとも考えられないので、被控訴人のこの点の主張も採用できない。

四  次に、三星に対する本件滞納国税の徴収不足及びこれが本件賃借権の寄附に基因するものか否かの点について検討する。

(一)  前掲甲第三号証の一一、乙第二号証、第六号証、第一二号証、成立に争いのない甲第二六号証の一ないし一〇(四ないし一〇については原本の存在も争いがない)、乙第九号証の一ないし一二、第一〇号証、第一五、一六号証、第二二ないし第二九号証、原審証人高山朗の証言により真正に成立したものと認められる甲第四ないし第六号証、原審証人高山熊雄の証言により真正に成立したものと認められる甲第九、一〇号証、第一五ないし第二〇号証、第二二号証の一ないし四、第二三、二四号証の各一、二、第二五号証の一ないし三(但し、第二二号証の一、四及び第二三、二四号証の各二のうち各官公署作成部分の成立(第二三、二四号証の各二については原本の存在を含む。)は争いがなく、また第二五号証の三については原本の存在も肯定できる。)、原審証人高山朗、同清水元信、同大石守男及び同高山熊雄の各証言と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1)  被控訴人においてはその設立許可後昭和三九年一二月六日霊園の起工式をし、昭和四〇年二月から墓地使用の権利の分譲を始めたのであるが、三星はそのころ被控訴人との間で、被控訴人の一般墓苑内に設置する墓石は三星が製造する「星式墓石」のみを使用するものとし、独占的墓石納入契約を締結した。ところで、被控訴人の設立許可申請書に添付された事業計画書によると、被控訴人は五年間で二〇万基の墓石の納入を受けてこれを売却することを計画していたのであり、星均ないし三星は被控訴人に「星式墓石」を納入することにより一基について実用新案権使用料を含め約一万円の利益を見込んでいたのである。そうして三星及びその関連企業は、霊園に附帯した観光サービス業を行なうことを予定していたので、被控訴人の霊園経営が順調に運べば、三星としては本件賃借権の寄附によつて生じた損失を上廻る利益をあげ得るものとの目論見を立てていたのである。

(2)  ところが、被控訴人は、前記のとおり昭和四〇年二月から墓地使用の権利の分譲を始め、同年中の売り上げは順調に伸びたものの、翌四一年春ころからは売り上げが伸びず、それとともに三星は借入金に対する利息の支払いにも窮するようになり、ついに同年八月一五日満期の金額三〇〇〇万円の約束手形の決済ができず、同月一八日銀行取引停止処分を受けて事実上倒産し、またその後被控訴人も四億六〇〇〇万円余の債務超過となり、破産宣告の申立てを受けるに至つた。なお、控訴人は、その原審主張1記載の国税債権のうち、本件滞納国税を除く国税につき、執行することができる財産がないとの理由で昭和四六年三月三〇日付をもつて三星に対する滞納処分の停止(法第一五三条第一項第一号)をしている。

(3)  そこで昭和四二年四月二七日行なわれた被控訴人の理事会において、被控訴人の経営を全面的に他に委譲して再建を図ることが決せられ、星均の懇請と地元政界の有力者の口添えにより、三菱地所株式会社が三星及びその関連企業の資産を引取ることを条件として被控訴人の経営を引受けてこれを再建することとなり、その一環として同年一二月一三日同会社の傘下にある東日本開発が三星から前記実用新案権及び原審における被控訴人の主張五4(二)(1)記載の土地〈1〉ないし〈12〉に設定されている賃借権を合計二億五二〇〇万円(うち実用新案権の分は約三〇〇〇万円)として買受ける旨並びに同被控訴人の主張五4(二)(3)記載の建物八棟を、庭園設備、建物内にある什器、備品、家具等を含めて一五〇〇万円として買受ける旨の契約を締結した。そうして、前者の契約に基づく代金のうち一億〇五八九万三二二四円は、その支払いに代えて三星及びその関連企業並びに星均個人等の被控訴人に対する債務を東日本開発が引受けることにより決済し、残金一億四六一〇万六七七六円については、同年一二月二〇日から昭和四三年一月一二日までの間、数回に分けて三星の代理人河本喜与之の口座に振込む等の方法で支払われたが、その後の右金員の行方は不明である。また、後者の契約に基づく代金については、昭和四四年一月二〇日ころ三星の代理人河本喜与之の依頼により、内六二五万円が三星の国税(但し、内六二三万七二〇〇円は三甲株式会社の第二次納税義務の履行分)の代納として東京国税局へ、内五〇万円が三星の地方税の代納として東京都へ、残金八二五万円は三星の債権者横田秀三に対する弁済として、それぞれ東日本開発によつて支払いがなされた。以上のとおり認められる。

右事実と弁論の全趣旨によれば本件告知処分当時三星につき徴収不足があつたことは明らかである。

(二)  本件賃借権がその評価額を一億七五八七万二〇九〇円として三星から被控訴人に寄附されたものであることは当事者間に争いがないものであるところ、(右評価額が単に形式的なものでないことは乙第三号証の二により明らかである)、被控訴人は、本件賃借権は借地法の適用を受けない通常の土地賃借権であり、契約上本件土地は墓地としてのみ使用することができ、墓地の経営は公益法人等限られた法人がなしうるにすぎず、営利法人である三星はその用法に従つた使用はできないのであるから、本件賃借権には譲渡性ないし換価性がなく、これを寄附しても法三九条にいう滞納者の資力減少行為にあたらず、三星の担税能力の喪失は、賃貸借契約締結にあたつて多額の金銭を補償料名目で地主に支払つたことにある旨主張する。そして、本件賃借権には借地法の適用はなく、三星が補償料名下に地主に金銭の支払をなしたことは当事者間に争いがないけれども、前掲乙第一号証の二ないし一〇によれば、本契約の条項には本件賃借権の実質は地上権である旨の文言があり、前示のとおり、三星は補償料名下に地主に実質権利金とみられる金員の支払いをなしているのであるから、これらの点からすれば、本件賃借権に譲渡性ないし換価性がないものとは認められない。却つて現に三星は、本件賃借権のうち、引用にかかる原判決添付別表一の3、4、9、31及び32(前示〈1〉ないし〈5〉に該当)を多額の金員で東日本開発に売渡していることは前認定のとおりであつて、本件賃借権の寄附が法三九条にいう滞納者の資力減少行為にあたらないものということは到底できない。

(三)  また、三星が東日本開発に売渡した前示賃借権の大部分や実用新案権が果して三星に帰属していたものかどうかには次のとおり疑の余地がある。右賃借権のうち、〈1〉ないし〈5〉すなわち原判決添付別表一の32、31、3、4及び9については、同表記載のとおり、昭和三九年五月一七日付仮契約及び同年九月二九日付本契約の対象物件となつているのであつて、前認定のとおりこれらは三星から被控訴人設立のための目的財産として寄附され、その設立許可により被控訴人に帰属するに至つたものと認められる(成立に争いなき乙第九号証の二ないし四によれば、右〈2〉ないし〈4〉については、その旨の被控訴人名義の賃借権設定登記が経由されていることが認められる)。この点からすれば、これらは三星の資産とはいいえず、被控訴人の資産と認めるのが相当である。もつとも、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、第六号証、第七号証の一、二及び原審証人高山朗の証言によれば、昭和四一年一〇月一二日付で三星から原告に対し寄附財産の一部について変更の申出があり、昭和四二年四月二七日行なわれた原告の理事会においてこれが承認され、同年五月八日付書面によつてその旨厚生大臣に報告されたこと、これによれば本件土地から前記〈1〉ないし〈5〉の賃借土地に該当する別表一の番号3、4、9、31及び32の土地が除かれ、その代わりに別表二の番号47及び50ないし53の土地が加えられ、その結果寄附された賃借権は別表一、二の〈4〉欄に○印を付した土地合計一九〇町一反六畝四歩(実測面積一八九町一畝九歩)の上に存することとなつたことが認められるのであるが、右三星から被控訴人に対して寄附財産の一部変更の申出がなされたのは三星が昭和四一年八月倒産した後のことであり、右変更の趣旨とするところも、乙第二号証によれば、「昭和三九年五月一七日付仮契約に基づき寄附の申入れをしました霊園用地は、地主との本契約により下記の通り決定しましたので、本目録により寄附致したくよろしく御取計らい下され度く」というのであつて、既に本契約を締結し、一部については登記まで経由した右〈1〉ないし〈5〉の賃借権を除外する理由は必ずしも明らかでないのみならず、昭和四一年一〇月一二日付の目録(乙第二号証)による寄附の事実は、本訴において被控訴人の何ら主張しないところであり、右事実自体の存否も疑わしい。また、前示のとおり、右申出は昭和四二年四月二七日付被控訴人の理事会で承認されているのであるが、乙第六号証によれば、右理事会には六名の理事中四名が出席してこの旨の承認可決したことが認められるところ、前掲甲第三号証の一〇(被控訴人の寄附行為の案文であつて、後に正式に寄附行為となつたものと推認されるもの)によれば、被控訴人の基本財産はやむを得ない理由がある場合において理事の四分の三以上の同意を得た後、厚生大臣の承認を得たときに限りその一部を処分することができると定められている(六条四項)のであるから、果して前認定の手続を経ただけで被控訴人が適法に右物件を三星に帰属させることができたかどうか、疑わしいとしなければならない。そして、右賃借権の目的となつている土地は合計三五町九反八畝二六歩であり、三星が東日本開発に売渡した土地賃借権の大部分を占めているのである。

次に、成立に争いない乙第一〇号証によれば、前記のように三星が東日本開発に売渡した前示実用新案権の登録名義は、星均から三和企業有限会社、そして泰宝商事有限会社によれぞれ移転し、かつて三星名義となつたことはなかつたことが認められ、客観的にみてこれが三星に帰属していたことは疑わしいといわざるをえない。

以上の点に鑑みると、少なくとも徴税当局がこれらの権利ないしその売却代金につき三星に帰属するものとして徴収手続に及ばなかつたのは寧ろ当然というべきである。

また成立に争いない乙第二三ないし第二九号証と弁論の全趣旨によれば、三星が東日本開発に売渡した前示の建物八棟については、三星が三甲株式会社の滞納国税(法人税等一億〇二九九万二二〇〇円)の第二次納税義務者であつたため、その滞納処分として控訴人が昭和四一年一〇月二一日差押えたのであるが、すでに右差押国税に優先する債権があり、公売を実施しても配当を得られる見込みもなかつたので右差押えを解除したことが認められる。

以上の事実に徴すれば、三星が東日本開発に前記の処分をしているところから、三星が徴収不足の状態になかつたとする被控訴人の主張は失当というべきである。

(四)  右に述べたところと三星が本件国税をその納期に支払わずに経過した事実を綜合考察すれば、三星が本件賃借権の寄附という処分をしなかつたならば、本件の徴収不足は生じなかつたであろうという関係があるものと認めるのが相当であるから、控訴人主張の国税の徴収不足は三星による本件賃借権の寄附に基因するということができる。

五  前記のように本件賃借権はその評価額を一億七五八七万二〇九〇円として三星から被控訴人に寄附されたものであることは当事者間に争いがなく、控訴人は、本件賃借権の寄附時における客観的な評価額は土地の更地価格が一平方メートル当り三七〇円を下らず、賃借権割合をその三五パーセントとみても二億八八三〇万円を下らないものであり、その後霊園としての整備を考慮すれば、本件告知処分時における被控訴人の現存利益は同額を下廻るものではない旨主張し、成立に争いない乙第一七ないし第一九号証と弁論の全趣旨によれば、右主張は相当と認められ、他にこれを動かすに足りる証拠はない。

六  以上のとおりであるから控訴人の本件処分は適法であつて被控訴人の本訴請求はその理由がないからこれを棄却すべきところ、これと判断を異にする原判決は不当であるからこれを取消すこととし、行訴法七条、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司 武藤春光 安部剛)

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